夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦

人気があるようなので読んでみたけど、「本屋大賞」「ダヴィンチ・ランキング」「児玉清の薦める本」等にことごとく親和性のない未熟者の自分には、残念ながら良さが分からなかった。
ことごとく伏線(らしきもの)が回収されないのでモヤモヤのしっぱなし。そもそもタイトルからして「命短し恋せよ乙女」(「ゴンドラの唄」)のもじりと思われるが、何故ここにこの駄洒落が必要なのかがわからない。また、第2章の古本市の場面で、ロレンス・ダレルアレキサンドリア四重奏』とジェラルド・ダレル『鳥とけものと親類たち』の兄弟による本が相次いで登場するものの、その理由については触れられることもなく、そもそも登場する必然性もない。
話の筋は基本的にスラップスティック・コメディのようなドタバタ。語り手が「彼女」のパートは、著者がおっちゃんであることを思うと、太宰治『女生徒』同様、最近めっきり老けたイッセー尾形が相変わらずの女子高生を演じてる姿を観ているかのようでイタい。登場人物が当然の如く空を飛ぶのも、単なる奇の衒いを「森見ワールド」「ファンタジー」「マジック・リアリズム」といったキーワードで誤魔化している印象を受けた。
ただ、もしかするとフォークナーやバルザックのように、著者による他の作品も併せた「森見サーガ」全体を俯瞰すると、本書に散りばめられた存在意義の不明な記述が後になって俄然輝き出すのかも。